◆孤独な中年男が、優しい性格から偶然の出来事をきっかけに狂気へと堕ちていく―
監督:トッド・フィリップス 脚本:トッド・フィリップス、スコット・シルバー
出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロほか
- DCコミックス初のヴェネチア金獅子賞✳︎
- アカデミー賞で作品や監督など最多の11部門ノミネート
スラングで「phenomenal!」(フェノメナル):傑出した「ヤバい!」映画
1 アメコミの仮面を被った最新版のニューシネマ
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ニューシネマとは、70年代に製作された作家性の強い社会派
犯罪や体制批判、バットエンドなど、苦痛を伴う作風で傑作が多い
「犯罪映画を再現したくて、流行りのアメコミを利用した」
フィリップス監督
確信犯である
「漫画本の映画を装って[作られた]本物の映画」であり、勧善懲悪にならう内容になっていない。
シリーズ中、斬新だったクリストファー・ノーラン監督による『ダークナイト(08)』でさえ、善悪の観念があった。
- 当初 アメコミファンには不評
『ダークナイト’08』で描かれた“悪のカリスマ”というジョーカーが未だに人気だ
目的を達成することにあまり興味はなく、残酷な行為自体を楽しむ。ヒース・レジャーが演じたjokerは知性に富むセリフ回しでバットマンを問い詰める。
純粋な悪とされ、潜在意識にある他者をねじ伏せる{力}が魅惑的だった。
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その娯楽性を本作に期待すると外す内容になっています。
- 本作のキモは、時代を捉えて反映すること
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ホアキン演じる主人公は、私たちが住んでいる世界に起こりうる-怒りと疎外感と格差に耐える鏡だ
個の狂気を今日の暴力的で悲惨な時代とつなぐトライアル、演技がすごい!
人気キャラクターを記号化したコトで、大手ワーナーに企画を通し[現代風刺]を投げ掛けた
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社会の歪みを掻き混ぜ 畳み掛ける、見たくないモチーフが目白押しです
挑発的で正直しんどい…(+□+ ll)「劇薬苦し」です。
初見はイヤな気持ちになりましたが…今を生きるための“視座”に富む話題作
2 主人公への嫌悪と共感
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【嫌悪】独自のアイデンティティを切り開くことができない、精神疾患の概念で茶を濁す
- 先ず“笑う”道化師として-[脳の機能障害を利用している]描写が作為的で不快でした…
私は 緊張を緩和させるために ニヤニヤしてしまう人を知っている。ますます精神疾患に偏見を抱く影響を危惧した…しかし、コミュニケーションにハンデある人たちへの無理解、劇中の「関わりたくない─」反応は「世相を反映したものだ」と改めました。
- 展開に違和感がある
弱者の苦しみと、そこから暴力に溺れていく“葛藤”が省かれているコト。
劇中、二回目の殺人が行われた時「急に!(+_+)良心の呵責は?」と肝を冷やす…
解り易いモノローグ(心情や考えを述べるセリフ)は提示されないまま、事象のみを切り取る。「ヒントとなる善悪を指し示す規律やニュアンスを欠いている―」と。
ただ、そういった罪悪感や自責の念、もしくはキリスト教観的な見方こそ、固定観念かもしれない─
劇中の事象モンタージュは、善悪の誘導をしない“潔さ”と捉えるべきか。
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この嫌悪感は“恐怖”からくるのではないか?
私も精神疾患の人を「メンドクサイ」と思う時があるし、話が通じた時は「良かった」と嬉しい気持ちにもなる。そうした“葛藤”は劇中には無く、むしろ観る側に委ねられる。
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【押さえておきたい背景】
現地アメリカで起こっている具体的な闇が盛り込まれています
- 米国の社会保障制度、特に医療保険は支払いを原因とする自己破産が深刻な問題
- 不安を煽り立てる大統領によって″忘れられた人たち″は、白人が社会のマイノリティーになってしまうコトに強い不安を感じている
- 民兵による独立で勝ち取った“銃社会”
- 日本よりも深刻な<仮面を被った>SNS依存での分断、他者を貶めてでも認知されたい一部の若者たち
トランプ氏は、こうした人たちを全肯定し、彼らに居場所を与えています。外から見ると…そんな根無し草なフォロワーはイケていないと思われますが、ダークなトランプ現象も、限定的な意味において、自己肯定的な明るさがあるわけです。
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そんな背景も踏まえると見方も変わってきます。
また日本も欧米化しつつあるので、形骸化は否めません
矛盾した不条理な世界との向き合い方を考える上で、ヒントを提供する。
▼Amazon prime videoで観賞する(Amazonアソシエイト プログラムの参加者です)
※以下、本編の内容に触れています、sceneの詳細な考察はしませんが 未見の方はご留意ください。
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【共感】具体的な社会問題を差し引いても、人間的な感情を揺さぶる
気味が悪いけれど、優しいアーサーが「どうしてこうなった!?」という過程を丹念に多面的になぞり、そのほとんどが他者から疎まれ“見下される”。人が優越感を誇示する場面に割かれています。暴行、裏切り、虐待…すさんだ内向きな関係性。
🏭資本家の素顔
弱者を助ける公約を掲げながら、個人の信条は さもしいクズである
知人である母子を見捨てる名士、「いかれ女」と言う裏の顔
ヒーローの父親像をひっくり返す
子に引き継がれるBATMANパンチの便所対応Σ(❛□❛ ll)
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「パンチの効いたゲーム」より
アーサーは、存在自体を無視された闇の出生だ。
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BATMANにさえ別の見方が提示される。
そして―――
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極めつけは、名優デニーロが扮する人気司会者も「人に笑われるピエロ」を利用する。今作は、金字塔である『タクシードライバー(76)』と『キング・オブ・コメディ(82)』のアップデートでもあるので、未見の方は要チェック!(↓Amazonアソシエイト)
「弱者視点を忘れたのか?トラビス!ルパート!」 、ふんぞり返る世の先輩たちに問う!!
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【POINT】艶かしいdanceは解放
映画史のレイヤーを重ね、巧みに再構築する、
<ガス抜き>は、映画ファンにとって生唾ものです。
主演男優賞に輝いたホアキンの魅力的な“小躍り”だけで観る価値がある
この時 アーサーが何を思っているかは、観客によって異なるでしょう。それは単なる社会に対する恨みや悪意ではなく、普段人間の奥底に押し込められている本性の解放です。
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負のスパイラルを中心に構築された演出は、都市の疎外感に基づいたノワール(闇社会)の心理的キャラクターの追及であり、原因について考えさせる。
貧富の差や、弱者に対して無情である環境が重なってしまったという見方もできるが、
アーサーは社会の犠牲者となって悪に染まったワケではなく、“保身の嘘”に怒りを示した。人気コンテンツの熱烈なフォロワーで、その現場で“終演”するつもりだったが、心変わりしたのである。
現実の裏切りが要因にある
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周囲の目が在る場では 善人のように振る舞う―――
・「方便」×「詭弁」の違い ~思いやり足りてる?~
日本語に「嘘も方便」という言葉があります
元は仏教用語で「相手の心配を他に逸らせることが目的で使われる」という、
あくまでも相手の利益になることを前提に、やんわりと嘘を肯定している表現です。
英語で近いのは「A lie is often expedient.」“嘘はしばしば得策となる”
功利主義といった批判的なニュアンスもあるので、「嘘はどろぼうのはじまり」でしょうか―
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【TV showのクライマックス】は
キリストの“最後の晩餐”
裏切りが告げられる場面を彷彿させます
「銀貨を手にするのは誰だー」
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規制されるのは何故か
・観る人によって解釈が変わってしまう視座の危うさ(確かに15歳未満の方が鑑賞するのは不向きです)
米国では「模倣襲撃者に駆り立てる可能性がある」と批判する見方が多い…
現状に不満を持つ人が、その原因を他者に求め、差別意識を強めることによって暴力行為に及ぶという流れだ。
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しかし『ジョーカー』における言説やアーサーの思考プロセスからは、人種や文化的特異性といった発想は描かれていない。不法移民やイスラム教徒に対しアイデンティティを否定する文化的不寛容は、むしろトランプ氏やブッシュJr.氏が拡散したのでは。
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そして、コロラド州オーロラの映画館銃乱射事件は『ダークナイト ライジング(12)』だった事から波紋が広がったが「犯人がjokerに憧れていた―」とする証言はデマだった。(むしろ其処は重要ではない)
この作品に描かれているのは、政治的な分断イデオロギーでもなく、無差別に殺人を犯してもいない。
あくまでも◆JOKER主観での生い立ちです。
「自分の存在は世の中にとって何の価値もないのではないか」という、絶望的な“問い”
人間としての根源的な“生き甲斐”の追及であり、昔から在る哲学イデオロギーだ。
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・ピエロは泣いているのに、笑う… 観客である「私たちそのもの」
日本でのケース
2021年10月「京王線刺傷事件」は、無辜の人へ“八つ当たり”をした卑劣な事件。犯人に“弱者”としての同情の余地はない。8月の『小田急線刺傷事件』を参考にしたとも話している。仮装した紫のジャケットは、ヒース・レジャーが演じた“かっこいい”jokerだ。一部のTV報道や週刊誌では、タバコの共通点からホアキン版『ジョーカー』の映像をセンセーショナルに取り上げた。短絡的な“憶測”が、犯行を盛り立てるという…本作品が規制される要因を担ってしまった。
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本作のjokerは“カリスマ”とは真逆で、アーサーはTV番組に憧れ あてどなく漂っている、
<仮面>を被った顔なきSNS支持者に持ち上げられた<裸の王様>である―――
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映画作品を規制したところで、自暴自棄な“無敵の人”が絶えるコトにはならない
根本的な原因を考える能力の劣化を意味している。
▼トッド・フィリップス監督が語る「ジョーカー」
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どう向き合う
・実際の加害者である、煽り運転や暴力行為は、「無視された」「イラついたから」「かまって欲しかった」という、凡庸で粗暴な動機が多い。承認欲求に飢えた状態であり、昔なら 動物的本性である喧嘩や殴り合いは日常的にあったが、“ストレスの耐性”が変わってきている。深刻に思い悩み、殺意まで抱くケースがある。被虐待児なら 尚更そうなる。(因みに精神障害者の犯罪率は健常者よりも低い-狡猾さが無ければ略奪や虐殺は出来ない)
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劇中に登場する人物も、ストリートチルドレンや、一見エリート風に思われるが ウェイン産業のwage slave/社蓄である。抑圧されストレスを溜め込んだ者は、より弱そうな者に鬱憤を晴らす。人は感情の動物で、絶えず“揺らぐ”醜さもある。一昔前なら“陰口”や“威圧”で 組織内での立ち位置を確保しようとした者は、現在では近寄りがたい人物としてミュートされるだろう。否定よりも容認できる“無敵の人”を目指したい。虚構である“悪のカリスマ”を演じ続けられる者はいない。
損得マシンの世では、“主観”で善人と悪人を分かつ境界が 非常に脆弱になる。
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劇中で語られるように-夢や家族、恋愛、仲間の空洞化が“絶望”を引き起こす
“弱者無視の社会”は、いつかジョーカーを引く「🃏ババ抜き」である―――
そんなストレス社会の根本は何なのか?気付かされる。
本編中に登場するチャップリンの『モダン・タイムス』から紐解く
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大量生産の機械労働によって人間性を喪失し、“働く意味”を問う喜劇だ
鋭い社会風刺を訴えながら、暗さは微塵もない(╹◡╹)
チャーリーのアクション、歌と踊り、愛が込められ、最高傑作に挙げる人も多い。
絶望の中に希望を見る力強さが『ジョーカー』の苦味をさらってくれます✿
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ex.監視、精神病院、デモ隊、逮捕、浮浪者、Show、護送車…
騒動を起こすチャーリーが犯罪者扱いされるなど、本作との類似点が満載。
「笑顔を失わない――」ハツラツとしたジョーカーがいるのです!
1936年に製作されたコトに驚きます(*□*๑ )
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一見、悲劇的な状況を俯瞰して描くことで、風刺を込めた笑いに変える❤
後に歌詞が付けられる♪「Smile」の原曲♬•*¨*•.¸¸♪(↓Amazonアソシエイト)
本作jokerの【視点を変える】大テーマの本流であり、
[笑っている金持ち階級の鑑賞scene]が強烈に響きますΣ(❛□❛ ll)「前フリ!」
・現実にもあります…少数派の“デモ”など必死に訴えている者を、滑稽に冷笑する者
「金でも もらってんじゃねーの」と嘯き嘲笑う態度は、側に引き込む遣り口である。
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誰が正気で、誰が正気でないのか?
社会の枠に囚われているのか、社会の外から“見る”視座を持ち合わせているのか―――
「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.
チャーリー・チャップリン
孤児院で育った不遇のときも、決して未来への希望を捨てなかったチャーリーの名言だ。
アーサーは “I used to think that my life was a tragedy, but now I realize, it’s a comedy.”
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個人の尊厳を無視して ひたすら効率を追い求める経営者は ご用心!
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気づくよ ψ(`∇’)ψ
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続編作『Joker:Folie à Deux』(フォリアドゥ)ではTodd Phillipsが再び監督を務めるが、Musical映画になると噂されている。Lady Gagaが出演することが正式発表されたー
精神病院『Arkham Asylum』で精神科医として勤務しているハーレイ・クインが患者であるジョーカーと出会って恋に落ち、パートナーとなって物語が進行していくことになる模様~
どんな作品になるのか、続報を待とう。
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Σ(❛□❛ ll)?
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